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高知家庭裁判所 昭和39年(少ハ)2号 決定

主文

少年を特別少年院に戻して収容する。

理由

少年は、昭和三六年四月二八日、高知家庭裁判所で虞犯保護事件により初等少年院送致の決定を受け、四国少年院に収容され、昭和三七年四月三日、仮退院し、同年一一月一〇日、同裁判所で仮退院中の遵守事項違反により中等少年院に戻して収容する旨の決定を受けて上記少年院に収容され、昭和三九年一月一三日、仮退院し(その際少年が指示された遵守事項は別紙一記載のとおり。)、高知保護観察所の保護観察を受けるに至つたものであるが、昭和三九年五月六日、四国地方更生保護委員会から、別紙二記載の理由により再度少年を少年院に戻して収容すべき旨の決定の申請がなされた。

よつて、審按するに、同委員会が本件申請の理由としてかかげる事実は、少年の陳述ならびに本件記録によりほぼこれを認めることができる。すなわち、少年は、仮退院後、自動車工場に工員として就職し、一時仕事に励んでいたが、次第に欠勤勝ちとなつて、遊興に耽り、家族に不相応な物品の購入をねだり、保護観察所の再三にわたる呼出しに応じないで、担当保護観察官および保護司との接触を避け、その指導を受けようとせず、同年四月一四日には、無断で大阪に出てバーテン等の職を探して歩くなどして、上記一般および特別遵守事項を遵守せず、少年に対する保護観察は不可能な状態になつた。そこで、本件申請がなされ、同年五月一五日、当裁判所において、少年を当家庭裁判所調査官上村坂喜の観察に付し、上記工場で再び就労させることにしたが、善行を保持すること一ヵ月ばかりで、またもや行状が乱れ、そのころ知り合つた女と旅館やアパートなどに泊つて性交を重ね、女から小遣銭を貰い、暴力団員と全く変らぬ服装で盛り場を徘徊し、無為徒食の生活を送るに至つている。

このような少年の行動に、高知少年鑑別所鑑別結果通知書に示されている少年の知能および性格ならびにやくざ風の男達と交友している現在の状況等をあわせ考えると、少年が将来罪を犯すに至るおそれは高度であつて、少年の健全な育成を期するためには、この際少年を特別少年院に戻して収容し、同少年院において、きびしい指導訓練を与え、永続的な勤労意欲を養成するとともに規律正しい生活習慣を培わせる必要が強く認められる。

よつて、犯罪者予防更生法第四三条第一項、少年審判規則第五五条、第三七条第一項、少年院法第二条第四項に則り、主文のとおり決定する。

(裁判官 渡辺貢)

別紙 一

誓約書

誓約事項

1 一般遵守事項

(1) 一定の住居に居住し、正業に従事すること。

(2) 善行を保持すること。

(3) 犯罪性ある者又は素行不良の者と交際しないこと。

(4) 住居を転じ、又は長期の旅行をするときは、あらかじめ保護観察を行う者の許可を求めること。

2 特別遵守事項

(1) 昭和三九年一月一三日までに高知県高知市○町三丁目○○番地S・K方に帰住すること。

(2) 昭和三九年一月一四日までに、高知保護観察所に出頭してその保護観察下に入ること。

(3) 三日をこえて住居をあけるときは前もつて受持保護司の許可を受けること。

(4) 非行を慎み保護者の指示に従つて速やかに就業し、真面目に働くこと。

(5) 受持保護司と緊密に接触し、進んでその指導を受けること。

別紙 二

申請の理由

高知保護観察所長よりの戻し収容申出があり審理するに(保護観察の経過及び成績の推移については同保護観察所提出の記録を引用する)高知保護観察所保護観察官中平日夫作成にかかる本人に対する質問調書等により疎明せられる通り

一、少年は、昭和三九年一月一三日四国少年院を仮退院するにあたり、犯罪者予防更生法第三四条第三項所定の一般遵守事項並びに四国地方更生保護委員会が定めた特別遵守事項を遵守することを誓約し、当日高知保護観察所に出頭し、担当保護司志賀勝行、保護者S・K、雇主○岡○郎の立会の上、主任官中平日夫より上記遵守事項の説示をうけ、これに背いたときは仮退院を取消され少年院に戻されても異存がないことを了知すると共に、前回戻し収容になつたことを深く反省して今後は何事もよく相談して更生に努力するよう激励をうけて帰住した。

二、少年は同年同月一四日より上記○岡自動車工場に就労したが同月下旬頃より、無断欠勤が始まり、夜間外出、無断外泊、遊興を繰返すうち、四月に入つては勤労意欲が全くなくなり、主任官・担当者の説示や激励の外、雇主の少年の宅訪問も屡々行われたが、同月一三日午前中のみ就労した以後は家出・所在不明となつた。

三、少年は一月二〇日頃新調の背広服か有るにかかわらず、更に新調するよう保護者に強要し、これを月賦で購入し得たのを始めとし二月一八日には、保護者に対し「バイク・モーターを買つてくれ、学生服を買つてくれ、アパートを借りるから」等を繰返し強要し、それが容れられないと知るや欠勤・徒遊し、同月二〇日には行先を云わずして外泊し、同月二八日には保護者より一、七〇〇円、雇主より給料内金一、〇〇〇円を受取り外泊し、遊興費に費消した。また三月二日には担当者の指示によりその自宅を訪れ指導をうけたにも拘らず翌三日には無断欠勤し、遊興に耽り、同月四日及び五日には保護者に対し「軽四輪車を買え」「スポーツ車を買え」「買わないと仕事をやめてしまうぞ」「三時までに買つておけ」等を怒号して戸を叩き靴をなげつける外「自分のことを保護司や観察官に云うと承知しないぞ」等申向けて保護者を極度に困惑させた。

四、少年は、仮退院後、非行性を有する問題少年であるA・B・C・D・E等の外、傷害罪で起訴され保釈中のFと交際し、これらの家で宿泊しカブ賭博を行い、またその数名と大阪に無断旅行した。

五、少年は、昭和三九年四月一三日頃、担当保護司・保護者等に無断で上記A等と上阪し、土工に就労し、まもなく帰高したが、呼出状が出ていることを知りながら高知保護観察所に出頭せず、上記F及びD方で止宿していた。

以上の事実により高知保護観察所長は、四月二〇日高知家庭裁判所裁判官渡辺貢の発布した引致状により同月二七日引致し、当日当委員会の審理開始決定により即日高知少年鑑別所に留置した。

右事実中、家出・無断旅行については、一般遵守事項第一号前段並びに第四号及び特別遵守事項第三号に、定職に永続せず保護者に暴力的言動をなした事実は、一般遵守事項第一号後段並びに第二号及び特別遵守事項第三号に不良性ある友人と交遊した事実は一般遵守事項第三号にそれぞれ違背しており、本人もその事実を認めている。

少年の知能は、準普通域であるが、性格は快不快・好悪等の感情に支配され易く且つ欲求不満に対し知的意思的統制に欠け享楽放埓にながれ易く、かんしやくを起して自己本位に乱暴な言動をとつたり、むら気移り気で行きあたりばつたりであつてその性格偏倚は少年院の矯正教育がなされているにも拘らず依然として矯正されていない。

仮退院後約三ヵ月半の間、主任官並びに担当保護司の熱心な指導監督・補導援護がなされたにも拘らず、観察開始後まもなく生活態度が乱れ、怠惰放縦にながれ、保護者に対し屡々過度の金品の要求をなし、暴力的言動をとり、その正当な監督に服さず夜間外出・外泊を繰返し、無軌道な家出・徘徊・県外無断旅行や不良交遊等をなす非行性・反社会性は根深いものがある。

従つて、現況においては、保護観察による改善更生の可能性は極めて乏しく、このまま保護観察を継続するときは、徒らに少年の反社会的傾向を助長するのみならず遂には再非行に至る虞があるとせざるを得ないので、この際少年を少年院に戻し収容し規律ある生活を体得する強力な矯正教育を施すことが、少年の将来のため資せしめる所以であり、また最適切な方策であると認める。

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